胸鎖乳突筋検証する!


胸鎖乳突筋 (きょうさにゅうとつきん)

発声指導者やボイストレーナーの集まりに行くと、胸鎖乳突筋が一番大切な筋肉だと語っている人をよく見かけます。
本当に、最重要なのでしょうか?
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正面胸骨部位から斜め上を見た状態 左右脇の大きな筋肉が胸鎖乳突筋





《胸鎖乳突筋情報》

起始
胸骨頭 胸骨柄の前面
鎖骨頭 鎖骨内側1/3の上面
停止
乳様突起
機能
片方の場合 頭を肩方向へ引き、オトガイ部を上方に向けながら反対側に回旋する
両方の場合 頭部を屈曲する 頭部を固定した場合は胸郭を持ち上げる
神経
副神経の脊髄根と第2頚神経
動脈
中部 上甲状腺動脈の胸鎖乳突筋枝
上部 後耳介動脈の後頭枝
下部 肩甲上動脈の胸鎖乳突筋枝




このように、胸鎖乳突筋はほとんど発声に関与していません。
もし、声に直接関係するなら、首を上下左右に動かすと、勝手に声が変わってしまうことになります。
首の向きをちょっと変えたら、音程が上がったり下がったり・・・
これではオペラやミュージカルなどの歌が成り立たないことになりますよね。
やはり、胸鎖乳突筋は頭を支えたり首を回旋させたりするのが役目です。

しかし、見逃してはならないポイントが2つあります。
①機能の項目に「頭部を固定した場合は胸郭を持ち上げる」とあります。これは、呼吸に関与します。横隔膜の動きを活性化させるには、内外肋間筋と胸郭の運動性が必要です。したがって、胸鎖乳突筋の筋力の弱い人は肋骨上方移動力に乏しく横隔膜を100%使い切れない人となります。特にオペラや声楽には必須の筋肉でしょう。この筋肉が凝り固まってしまうと呼吸の観点から発声能力が低下するのは間違いないでしょうね。しなやかで力強い筋力を養ってください。胸鎖乳突筋の筋トレは、仰向けの状態でゆっくり首を起こせばOKです。正面、右向き、左向きなど各10回ずつ、または、起こしたまま1分静止するのも一法です。筋トレの前に、胸鎖乳突筋のストレッチングが必須ですから、お忘れなく!
②動脈欄の上甲状腺動脈です。上甲状腺動脈は外頚動脈からの分枝です。以前、あるテノール歌手が車の事故でむちうち症を患いました。頚椎の損傷はなかったものの胸鎖乳突筋がパンパンに腫れてしまいました。その結果、会話声は問題ないが、歌の中で高音が出なくなってしまいました。その後、胸鎖乳突筋の腫脹が軽減するにしたがって高音が戻ってきました。これは、直下にある外頚動脈が胸鎖乳突筋の腫れの圧によって血流が悪くなり、声帯の伸長運動を阻害したと考えられます。この仮説を国際医療福祉大学東京ボイスセンター副所長の楠山敏行先生にお話したところ「十分可能性がある」と賛同いただきました。喉頭筋にも精通する楠山敏行先生は、音声専門医の中でも屈指の優秀なドクターです。
このような経緯から、胸鎖乳突筋が重要視されるのでしょう。
まだまだ研究しなければならないことが一杯ですね。




ボイスケアサロン
會田茂樹(あいだしげき)




追記:なぜ胸鎖乳突筋などと難しく長い筋肉名なのでしょう? それは、筋肉命名の多くが形状に由来するものと骨付着部位を表すものがほとんどです。形にちなんだものとして三角筋(その名のごとく三角形をしている)や僧帽筋(西洋の僧侶の帽子に似ているから)があります。胸鎖乳突筋を含め、肩甲舌骨筋や輪状甲状筋は付着部位からくる名前です。






~メッセージ~
この記事は投稿時の情報・見解・施術法であり、最新・正確・最良でない可能性があります。内容に関し一切の責務を負いません。その旨ご承知いただきお読みください。會田の理論と技術は毎日進化しています。
by aida-voice | 2008-12-19 16:11