2008年 03月 07日
旧 會田ボイス整骨院 ホームぺージ ボイスコラム4
ホームページ改新にあたり、2005年に発表した會田ボイス整骨院ボイスコラムを載せます。
このコラムは当時の最新発声医学をお伝えしてきました。
既に古い情報となってしまい、現在とは多少異なる見解もあります。
しかし往時の最先端を偲んで訂正せずに載せることをご了承ください。
その点をご考慮いただき、お読みくださいますようお願い申し上げます。
4:発声の科学を知ろう
これまで皆さまの健康の一助になればと願い、医療と技術の研鑽に勤しみながら、大勢の患者様の施術を担ってまいりました。
十年間で延べ40万人以上の来患です。
柔道整復師という医業類似行為者として、筋、骨、靭帯などの軟部組織の外傷(骨折、捻挫、打撲、挫傷)を扱ってきました。そこでの対象の部位は、肩腰であったり手足であったり肘膝であったり、比較的大きな部位でした。さらに、そこには僧帽筋、広背筋、上腕二頭筋、大腿四頭筋、総指伸筋、腓腹筋等々、頻繁に名の出てくる著名な筋肉ばかりです。
数年前から発声と喉の研究を始めましたが、喉周辺ほど複雑で細かい筋肉は他の箇所にはありませんでした。
解剖や生理に関連する耳鼻咽喉科学や音声学の難しい専門書籍は多少ありましたが、ボイスメンテナンスに有用な文献は非常に少なく、理論構築と技術習得に相応の時間と労力を要しました。
知れば知るほど喉は『生き物』であり、唯一無二の結論には至りませんが、ここでこれまでの成果を皆さまにお伝えできるのは至福の極みでございます。
発声のメカニズム
これまで『パフ理論:呼気時に声帯が開閉して声門上部の空気中に振動活動を起こす気流が生じて声になる』、『神経クロナキシー説:声帯が振動する割合と神経インパルスが喉頭の筋組織を刺激する割合とが関連しあって声になる』と発展してきたが、最新の有力説は『空気力学‐筋弾性説』だそうです。
これは、披裂軟骨に結合している筋群が声帯を内転させ声門(声帯の間にあるすきま)が狭くなります。
次に、気管からの呼気は声帯と声門に当たる。
圧力が高まって、呼気は声帯をすり抜け、それにより声門下は再び陰圧になって声帯は内転します。(ベルヌーイ効果)このことから声門で受ける抵抗は少しずつ増して行きます。そして、耐えきれなくなった声帯は瞬時に離れて呼気が放出され、一連の行動が規則的に繰り返されます。呼気の急流が上気道で気圧の障害波(音圧波)を生じさせたとき原音が生じるのです。
これが『空気力学‐筋弾性説』の発声メカニズムです。
解剖図とにらめっこしながらイメージしてみても、すぐに理解できないほどの難しい理論でしょう。
声帯で生じた音は喉頭原音と呼ばれ、軟部組織の声帯が“ブォー”と力無く鳴るだけ。
喉頭原音は(息と共に)上行して口や鼻などから声として出て行きます。それまでに喉頭室、喉頭前庭、咽頭、鼻腔、舌などの器官が、からまった縄のように関係しあって構音や調音、つまり音を味付けします。
つまり、軟部組織の形を駆使してさまざまな音を生み出すことにほかなりません。
以上のことから、完全に解明されていないのも主因ですが、甲状軟骨内にある声帯や内咽頭筋を直接コントロールして、より良い声を得るような手段を模索するのはかなり困難であると考えられます。
そこで、当院では発声のメカニズムを明確に説き明かすことが主眼ではなく、喉周辺の筋肉にさまざまなアプローチを施して、美声の獲得や歌唱力のアップを目的としました。
そして、顎関節の柔軟性、胸鎖乳突筋・輪状甲状筋・胸骨舌胸筋のストレッチと筋力アップ、舌骨のポジション効果、大・小菱形筋や広背筋の活躍、息の流れと姿勢など、多様なスキルアップノウハウを開発しました。
これらを達成したとき、得られる美しく輝く声を『アクティブボイス』と命名しました。
アクティブボイスを獲得するための施術をボイスメンテナンスと言います。
クラリネットやオーボエのような木管楽器を思い浮かべてください。
特徴は、シングルまたはダブルの振動版リードを楽器の先端に設置して奏者の口から息が吹き込まれます。
これらの楽器はリードを付ける先端部分、その下の指孔のない短い部分、指孔がある調音する長い本体部におおむね3ピース以上に分解することができる品が多くあります。
このリードだけあるいはリードの付いた先端部だけを取り出して鳴らしてみると、誰もが知っているきれいな音ではなく、“ブォー”と愚音が聞こえるだけです。
まさに声帯での喉頭原音と同じです。
次に、その下の指孔のない短い部分をジョイントして吹いてみると、先ほどよりは整った音になりますが、依然平たくつまらない音です。
最後に、指孔のある部分をセットして吹けば、豊かな音が聞こえるのです。
今度は弦楽器であるギターやバイオリンで考えてみましょう。
弦楽器の名のごとく弦を使用して発音しますが、ギターは指やピックで弾き、バイオリンは馬の毛の弓で弦をこすります。
弦だけを取り抜いてピンと張り、それを弾いたり弓でこすったりしても、通常耳にするような豊かな音は再現されません。小さく“ビンビン”または“ギーギー”と寂しく鳴るだけです。
ギターでは、響孔のあるくびれた胴(響板)がなければ、またバイオリンではf字孔のある中空の共鳴胴がなければ、正しい音は鳴らないのです。
ピアノはどうでしょう。
ピアノは、ケース内部にあるハンマーで弦を打つ鍵盤楽器です。
同様に弦だけ取り出してピンと張り、ハンマーで打っても、誰もが良く知るピアノ音にはならないでしょう。
ピアノは響板とケースがなければなりません。
その他、トランペットのような金管楽器でも同様。
つまり、すべての楽器の音源は他愛もない小さな音ですが、共鳴させる空間や板や胴が存在してこそ、音色の豊かな個性ある楽器となり得るのです。
人間の声も同じです。
音源である声帯の喉頭原音が喉頭室、喉頭前庭、咽頭、鼻腔、舌などによって共鳴し音色をつけて最終的に発声されるのです。
もう一度バイオリンで詳しく検証してみましょう。
バイオリンには、乾燥させたスプルース材(エゾマツの類)の表板、乾燥させた楓(かえで)材の裏板、横板、ネック、指板、ペグ・ボックス、ペグ、ブリッジ、テールピース、f字孔などの部分があります。
表板、裏板、横板をはりあわせて、中空の共鳴胴が作られます。
共鳴胴の内部には、ブリッジの右の根元に魂柱(うすい木片)がはめられ、表板と裏板を支えています。
表板の裏にはブリッジの左側に細長いバス・バーが貼られています。
魂柱とバス・バーは音の伝達にとって重要であると同時に、楽器の強度を増す役目があります。
弦はテールピースに固定され、ブリッジにのせ、指板の上に張り渡されてペグ・ボックスに至り、ペグ・ボックスで弦は音高調整のためのペグに巻きつけられます。
奏者は左手の指で弦を指板に押し付けて、異なる音高を出すのです。
正しい角度に弓を構え、ブリッジの近くで弦をこすると、弦が振動して音が出ます。
前述の説明文を元にバイオリンの発音構造と人間の発声構造を比較してみましょう。
ここで、演奏技術とか高級品とかは除外し、一般的なバイオリンの音色を変える、つまり良い音を出すにはどこに重点を置けばよいでしょうか。
弦や弓を最高品にしても大きく変化しないのは明白。
スクロール、ペグ、ブリッジ、テールピースなどの部品を交換してもそれほど効果はないと考えられます。
やはり、表板、裏板とf字孔の胴全体が関与しているのは火を見るより明らかですよね。
この部分の振動率を高くしたり共鳴効果をアップさせたりするのが、全体として良い音につながります。
バイオリニストの垂涎の的であるストラディバリウスやジュゼッペ・アントニオ・グアルネリのバイオリンは胴が名器であって、決して弦ではないはずです。
弦をギュッと張ることのできるしっかりしたペグやブリッジの取り付け。
すなわち、声帯を張るための内喉頭筋の強化と、舌骨付着筋群をコントロールして喉頭を安定させる。
共鳴を促進するバイオリンの立派な胴の製作。
すなわち、声帯より上の共鳴腔を活躍させるための外喉頭筋の筋トレとストレッチング。
このような具体的なボイスメンテナンスをすることにより、あなたの声をストラディバリウスのように美しく鳴らそうではありませんか!
~メッセージ~
この記事は投稿時の情報・見解・施術法であり、最新・正確・最良でない可能性があります。内容に関し一切の責務を負いません。その旨ご承知いただきお読みください。會田の理論と技術は毎日進化しています。
by aida-voice
| 2008-03-07 00:39