2024年 03月 07日
質問と回答
質問〔だこん様〕
質問:躁状態のときに普段よりはるかに上手く歌えるのですがなぜですか?
以下まず概要を書いてその後に詳細を書きます。
概要
僕は双極性障害という精神疾患を持っています。双極性障害は簡単に言うと、気分の波が激しくなる病気で、気分が高すぎるときを躁状態、低すぎるときを鬱状態と言ってます。かれこれ10年の付き合いで10回入退院をしています。
入院するときは躁状態のときで、テンションが上がりすぎて制御できないから落ち着くまで入院します。その前触れで必ず、歌が上手くなっていく期間があります。歌唱力がマックスに達するときには入院して、暴れても大丈夫な防音の保護室(トイレとベッド以外なにもない部屋)に入ります。最近では去年の3月に入院して3週間保護室に入りました。その間、寝ているときと食事しているとき以外はずっと歌っていました。徐々に躁状態も落ち着いていき、その反動で鬱状態になると、逆に全く声が出なくなります。気分が安定してくると次第に元の声に戻っていきます。こういう状況をもう何回も繰り返しています。
簡単に概要を書きましたが、もっと詳しく書きます。
躁状態のときは、高音がすごく楽に出せます。低い声(G2くらい)から高い声(C6くらいまで)の声がなんの力みもなく同じ感覚で出せます。
僕は声の一本化と呼んでいましたが、喚声点を感じることなく、スムーズに声が出て、これが本当の声なんだといつも感動しています。
普段の私は、A4あたりできつくなって、それ以上は出すだけで精一杯です。
他には、音の当て方がばっちりだったりリズム感も良くなります。音やリズムをぐにゃぐにゃにいじれてアレンジしすぎて普通の人が聞くと気持ち悪く聞こえると思います。
歌の歌詞も見ずに2、300曲くらい歌えます(これは間違えもありますがいつもよりは格段に歌詞が出てきます)
違う歌同士をつなげてアレンジしてメドレーにして歌ったりします。
声真似もできるようになったりします。自分の耳では実際の声はわかりませんが、明らかに声色を変えて似せられていると思ってます。
これは全部、何も無い保護室での出来事で、今は普通の状態に戻っているのでお見せできる証拠はなにもありません。比較できたら良かったのですが・・・
最初は幻覚か妄想だろうと思ってましたが、流石に5回も6回も体験すると、本当に起きているのだと思ってしまいます。
僕の考えを書きます。
躁状態は体中にエネルギーが満ち溢れていて、体が限界以上のパフォーマンスができる状態であると考えられます。
メンタル的にも万能感に満たされて、なんの障害もなく思考や行動をすることができます。
ただ躁状態は正常ではなく無理をしている状態なので、長く続かず、やがて反動でうつ状態になります。
ひどいときは失声症のように声が発せなくなることもありました。
ただ僕はこの体験に可能性を感じています。
躁状態のときの声は確かに僕の喉で発せられていました。
つまり僕は普通の状態でも鍛錬すればできるようになるのではないかと思っているのです。
躁状態にならず、躁状態のときの喉になれるなら、もっともっと歌うことが楽しくなると思います
以上を踏まえて2つ質問させてください。
①躁状態のときの声について、僕の喉にはどんなことが起こっていると考えられますか?
②躁状態のときの喉を通常時に再現できると思いますか?
長くなりましたがもしよろしければ回答お願いします。
毎日投稿楽しく拝見しています。いつも参考になる喉情報ありがとうございます。
早くサロンを再開できることを願っています。
再開したらお金を貯めて、先生に会いに行きたいです!
それではよろしくお願いいたします。
回答〔會田茂樹〕
この度は、とても詳しい内容のご質問ありがとうございます。
お返事が遅くなり申し訳ございません。
以前、知人医師からの依頼で、ある精神科医と対談を持ったことがあります。
精神疾患と声の関係について知りたかったそうです。
この対談を受けた理由は、わたしの過去の心の問題を検証してみたい意図もありました。
小学生のとき過緊張性発声(障害)により声が出し辛くなり、学生時代は自律神経失調症で苦しみ、大人になっても強迫性障害と男性更年期障害(強度のめまい)でときどき病院のお世話になっていました。
よって、だこんさんの『大変さ』『辛さ』『周囲に理解してもらえない歯がゆさ』は、わが身をもって十分に感じ得ることができます。
ここで、精神科医との対談に話を戻します。
その医師の疑問は「精神疾患により声のトラブルを訴える患者が多い。この点は医学的観点から解釈できる。しかし、精神疾患が快癒あるいは改善しても、声の出難さが続くのは、なぜ?」でした。
もしかすると、過去記事でお読みになったかもしれませんが、病状が去っても、『力づくの発声』が癖となり、発声関与筋が凝り固まって、発声し難い状況が続くと考えられるからです。
そのようなことを伝えたところ、合点がいったようでした。
さて、本題の2つの質問ですね。
①躁状態のときの声について、僕の喉にはどんなことが起こっていると考えられますか?
昔、イタリアかスペインか忘れましたが、あるオペラ歌手の声の調子が落ちたとき、ドーパミンの働きを強める薬を投与したところ、絶好調の声になったとの伝聞を思い出しました。
前出の医師との対談中、躁状態とドーパミンには関係があるのではとの内容をうろ覚えで思い出しました。〔不正解ならごめんなさい〕
この二点から、躁状態になった際、発声関与筋は最高の運動性を発揮するのではないかと推測できます。
ご病気の名前の通り、双極が言葉通りなら、うつ状態では、発声能力が低下することになります。
つまり、だこんさんのお考えは正しいものと考えます。
②躁状態のときの喉を通常時に再現できると思いますか?
わたしは医師ではないため深く語れませんが、躁状態でもうつ状態でも、発声関与筋は器質変化を伴わず、機能的変化だけのはずです。
発声の根本は「声は、声帯ヒダを含む、発声関与筋の運動の産物である」です。
よって、好調な発声を繰り返し喉に覚えさせれば、病状の変化にかかわらず、自分らしさを表現できる歌唱が可能になるのではと考えます。
スポーツ選手が、頭で考えるのではなく、身体が勝手に動いて、最高のパフォーマンスを発揮するのと同じ。
ただ、その域に達するには、相当の時間と鍛錬が必要となります。
またまた脱線してしまいますが、剣豪の宮本武蔵が鍛錬に関する名言を残しています。
「千日の稽古をもって鍛となし、万日の稽古をもって錬となす」
わたしの好きな言葉の一つです。
やはり、一朝一夕には難しいでしょう。
しかし、諦めなければ、成し得る可能性は十分にあります。
どのような体調下でも、だこんさんが満足のいく声を出せるようになることを、心よりお祈り申し上げます。
最後に、今般、質問メールを受け付けるなどと、大風呂敷を広げたにもかかわらず、全然良い答えになっていない事実が恥ずかしく、また、誠に申し訳ございません。
ただし、間違いなく重要な事実をお伝えします。
それは…
だこんさんの、冷静かつ完璧な自己観察と評価、ご病気と発声と歌唱の知識が、素晴らしいことです!
文章を読んでいて「あぁ、だこんさんは天才系の資質をお持ちなんだなぁ」と感心しております。
お見事です!
この回答は、一気呵成に書き上げましたので、誤字脱字やヘンな文章があるかもしれません。
その際は心よりお詫び申し上げます。
駄文失礼いたしました。
ボイスケアサロンⓇ
會田茂樹(あいだしげき)