声の短問短答【続編】300


「輪状甲状筋を鍛えるだけで高音が出るのですか?」

いいえ、正確にお答えするなら、違います。
最初に高音を作り出す様態を考えてみましょう。
弦楽器を想像してください。
どうすれば高音が可能か?
弦を張る、弦を短くする、弦を細くする、ボディ(胴)を小さくする、あたりでしょうか。
これは、ひとの発声にもこのまま当てはまります。
人間の声の生成元は声帯です。
つまり、①声帯を張る、②声帯を短くする、③声帯を細くする、そして声帯ではありませんが、④共鳴腔を狭くする、となりますね。
まず、声帯を張る、つまり伸ばすこと。
この運動のかなめが輪状甲状関節です。
輪状軟骨と甲状軟骨の両前面部を近づけると、披裂軟骨と前連合の距離が増し、声帯が伸びます。
そして、この運動を担っているのが、皆さんの大好きな輪状甲状筋なのです。
次に、声帯を短くする。
残念ながら、これは生まれ持った個性となり変更できません。〔一部GIDのM to Fに対する手術は存在します〕
男女の音高の違いも、この声帯の長短にあります。
次は、声帯を細くする、つまり、声帯厚を薄くすることですね。
声帯筋と内筋が関与しますが、詳細はわかっていません。
そして、共鳴腔の狭小化。
5つあるヒトの共鳴腔の中で、音色や響きに大きく影響を与えるのが咽頭共鳴腔です。
最重要の共鳴腔とお考えください。
なお、加えて、声帯は硬度が可変なため、⑤硬くして高音にしたり緩めて低音にしたりもできます。
これは声帯筋と声帯粘膜が関係します。
上記の①から⑤を単独や複合して、さまざまな高音を発するのです。
では、なぜ、高音発声で輪状甲状筋が注目されるのか?
それは、輪状甲状関節の動きと声帯の伸長が確定的かつ躍動的だからです。
しかしながら、実際に摘出喉頭(解剖は医師)の触知研究で、輪状甲状関節の動く距離と声帯の伸び率を調べてみると、驚くほど小さく少ない動きなのです。
残念ながら、皆さんが思っているよりも。
したがって、輪状甲状筋を鍛えれば高音は出ますが、それは高音発声要素の一つに過ぎないのです。
この事実を踏まえて、輪状甲状筋のトレーニングに励んでください。

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追記:輪状甲状筋が働くには絶対条件があります。輪状甲状関節が正確に動く環境にあること。喉頭深奥ポジションや輪状甲状関節亜脱臼が存在すると、輪状甲状筋を使わない高音発声が常態化し、どんなに輪状甲状筋を鍛えようとしても徒労に終わります。十分ご注意ください。






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by aida-voice | 2014-11-07 00:14