声の短問短答【続編】71


「師事するA先生とB先生の言うことが違うのですが、私はどうしたら良いのでしょうか?」

A先生は喉を開けろ、B先生は喉を絞めろと言う。
C先生は口角を上げろ、D先生は口角を上げずに唇を使えと言う。
E先生は下顎を前方に突き出せ、F先生は下顎を引っ込めろと言う。
さあ、どうしましょう!?
実は、どちらも正しく、そして、どちらも正しくないのです。
それは、発声法(歌唱テクニックやメソッド等)に100%は存在しないから。
なぜ?
●外喉頭の筋肉の本数や動きの個体差が大きい(約六百三十本ある骨格筋の中で発声関与筋は二十数本)
●発声のための喉頭周辺筋は、動きの正確な感覚を有していない
そう、A先生、B先生、C先生、D先生、E先生、F先生は、それぞれ自分自身が身につけた手法がベストであると考え、あなたに教えているのです。
しかし、A先生やB先生が培ったメソッドが、そのままあなたに適するとは限らない。
C先生やD先生が歌ってうまくいったテクニックが、そのままあなたにもうまくいくとは限らない。
E先生やD先生が行う開口法が、そのままあなたに合致するとは限らない。
極論、みんなどこか正しく、みんなどこか間違っている。
そう、歌唱法に“絶対”はあり得ないのです。
そこで解決するヒント。
教えられる側は、①自分の喉構造(形状や大きさを含む)を把握しておくこと、②自分の外喉頭筋の運動能力を事前に知っておくこと、③それらを的確に判断して無理な手法からはうまく逃げること、を心掛けてください。
自分の喉と声を正確に知っていれば、各指導者の良い点のみを吸収でき、自分に適合しない部分は聞き流すことができます。
合わないトレーニングで、あなたの喉を壊してからでは遅いのです。
是非、発声の正しい知識と自分自身の喉の正確な状態を知ってください。
そうすれば、問いの答えは、自ずと導かれます・・・

声の短問短答【続編】71_e0146240_2121153.jpg




追記1:サロン内や講習会でも「ボイストレーナーは誰がお薦めですか?」「読むべき発声の本を教えてください」と訊かれます。わたしは、数多くのボイストレーナーや音楽教師にお会いし、発声に関する書籍はほとんど購入して読んでいます。その結果の感想が、上の本文。諸先生や各本は、正しさを信じて教授しています。この行為は正しいのです。したがって、どの先生にも、どの本にも、敬意を表してください。小さな間違いや、個体差による不一致は、必ず存在すると考え、この点は不問とすべきでしょう。そう、さまざまな理由(喉頭フィジカル、メンタル、人間関係、練習環境etc.)で、あなたに100%合うとは限らないだけなのですから。あなたが取捨選択する能力を養えば済む話。がんばってくださいね!




追記2:昔々、わたしは真実以外は許されるべきではないと妄信し、一部のボイストレーナーや書籍を酷評していた時期がありました。そのためか、わたしの理論やボイスケアサロンの施術に対し誹謗中傷を受けます。その後、ますます多くの喉に触れ声を聴き、その曖昧性を知るにしたがい、また、齢を重ねたせいか、「どの先生も、どの本も、良い点がいっぱいある!!!」と、心底感じるようになったのです。声帯ヒダが、元々は発声のためでなく、防水弁から進化した可能性が高いため、発声方法に「これで完璧!」と言った正解が無いのは当たり前。人間の数だけ手法があるはず。その中でちょっとでも汎用性があれば秀法。それを先生や著者は伝えているのです。歌唱法を教えたり本を書いたりって、これは大変なお仕事ですよ。是非、リスペクトの念を持って評価して差し上げましょう。




追記3:とくに音楽大学声楽科の場合は大変ですね。入学したら、自分の望みで先生を選べない。だからこそ、誰よりも自分自身の喉を正しく知る必要があるのです・・・





~重要なお知らせ~ ●外喉頭から考究する発声の理論と技術は日々進化しています。この記事は掲載時の情報であり、閲覧時点において最新・正確・最良でない可能性があります。すべての記事の内容に関し、一切の責務を負いません。●記事の内容は万人に適合するものではないため、当サロンの施術に関し、記事の内容通りの効果や結果は保証も確約もしておりません。〔当サロンでは役立てないと判断された場合、理由を問わず施術をお断りします〕●声や喉の不調は、最初に専門医の診察を受けてください。歌唱のトラブルは、最初にボイストレーナー(音楽教師)にご相談ください。




by aida-voice | 2013-04-27 00:04