2011年 08月 15日
舌を押し下げるトレーニングは是か非か!?
重要な警告です。
無理やり舌を押し下げると舌骨が深奥化します。
そう、目指している「喉を開ける・開く」に逆行してしてしまうのです。
10人に試しました。
主に歌手や声を大切にしているひとで、それ以外の若干名。
実験の結果・・・
3人は甲状軟骨が多少下がるだけでしたが、残りの7人は
甲状軟骨が下がると同時に舌骨が奥に入っていきました。
そうです、舌骨の深奥化現象です。
さらに詳しく検証すると、甲状軟骨が下がるだけのひとは
舌の押し下げポジションが深い位置であり
舌骨が入り込むグループは舌中部を下げていました。
舌中部を押し下げると、舌骨と喉頭蓋の間隙に舌体が入り
舌骨と喉頭蓋を深くして、喉頭蓋を下げてしまいます。
さらに、軟口蓋は柔らかい板です。(加齢や生得的な個人差あり)
圧によって平らになって呼気の気流を変化させる可能性が大きいのです。
総合的に息の流れを阻害する結果となります。
これでは、咽頭共鳴腔の体積を小さくするだけでなく
喉頭蓋で梨状陥凹にフタをして、より声を悪くしてしまいます。
「舌をグッと下げなさい」「あくびをするように」と指導される場合は
キチンと論理的な目的を尋ね、納得してから行ってください。
舌を力ずくで押し込んだり、スプーンで無理やり下げたりして
懸垂機構(甲状軟骨を吊り下げている筋群)の肉離れや
舌骨喉頭蓋靭帯のマイクロ断裂などを、誘発したケースが後を絶ちません。
発声時の痛みや異常感、息苦しさ、声が響かない、音がこもっているなどの症状を呈します。
そのような患者さまをおおぜい診てきました。
一旦負傷してしまうと、程度が小さくても、「しゃべる」行為は傷ついた
該当箇所の運動を強いるため、なかなか治りません。
十分ご注意くださいね。
以下に、矢状断面図の模型写真を用いて解説します。
頭頚部を真ん中でスパッと割った状態(これは模型ですからね‐微笑‐)
舌と舌骨と喉頭蓋を拡大した様子(力を入れていない)
さあ、これから舌に力を入れて無理やり押し下げてみましょう(黄色矢印)
実際に舌を押し下げている状態
喉頭蓋の位置と形状を確認しましょう
①下がっている(蓋は「ふた」の意味)
②やや平坦になっている(軟骨組織の硬度により個人差がある)
さらに・・・
●呼気の流れが変化したり少なくなったりする(紺色矢印)
●響きや音色に関与する咽頭共鳴腔の空間が小さくなる(オレンジ色楕円)
●舌骨喉頭蓋靭帯に引っ張られて舌骨が奥に入る(緑色矢印)
追記1:2010年8月21日にご報告した「無理やり喉を下げる行為に注意」と類似します。しかし、今回、警鐘した「舌を押し下げる行為」の方が、より危険度は増します。喉頭(ここでは舌骨・甲状軟骨・輪状軟骨など)を下げるには、細く小さな筋肉たちの引っ張る力に頼っています。したがって、舌を押し下げる行為よりパワーが小さくなります。舌を強制的に押し下げる訓練をする場合は、リスクを十分に理解し、ケガをしない対策をしてから行ってくださいね。あなたの声の健康を願っています。
追記2:ハイ‐ラリンクスを治すために舌を力いっぱい下げるトレーニングを指導する歌の先生もいらっしゃいます。その訓練が自分にとって有効か否かは、自己判断で!
追記3:「痙攣性発声障害(SD)の発声改善のための一つの方法として、舌を押し下げると良いと聞いたのですが、本当ですか?」との質問を複数回受けたことがあります。結論から言うと、間違っていると考えます。第一に、筋肉の過緊張や過硬化を促進します。これでは、詰まり感や声の震え・割れが増してしまいます。第二に、喉を通過する呼気が減る(息が浅くなる)ため、いっそう声が小さくなってしまいます。SDの方は、逆に舌骨が前に出るようトレーニングすると、症状が軽減されることがわかってきました。詳しい正確な訓練法は、施療時に直接お尋ねください。
~メッセージ~
この記事は投稿時の情報・見解・施術法であり、最新・正確・最良でない可能性があります。内容に関し一切の責務を負いません。その旨ご承知いただきお読みください。會田の理論と技術は毎日進化しています。
by aida-voice
| 2011-08-15 07:45