2010年 05月 02日
声や歌に「正解」なんて・・・、無い!
喉周辺の筋肉は、ちょっと変わっています。
身体の中でも、「ここだけ違うぞ!」と、絶句するような存在や動きがいっぱいあります。
その主な例を列挙。
①喉まわりには役目のはっきりしない、少し突っ込んで言えば、必要のない筋肉が多くある。
「なぜ、この筋肉があるわけ?」「もし、ここに無ければ、もっと声は楽に出るのに・・・」「どうして、これほど効率が悪いの!」と疑問の連続です。
発声は、まる=ドタバタ劇=。
②舌骨の存在の意義。
もちろん、舌を支え、嚥下には必要です。
しかし、この存在する意味が難しい。
もし、舌骨を取り除くと、どうなる?
つまり、手術で摘出し、舌骨付着筋を、近接する該当筋と結ぶ。
この結果、発声も嚥下も可能であるそうです。(やり難いとは考えますが・・・)
そう・・・、無くても済んでしまう。
また、舌骨は人間の骨の数、約200本(「約」と付くのは尾てい骨の数がひとそれぞれ異なるから)の一つなのですが、唯一、関節を形成しない、すなわち、空中に浮いている(つるされている)骨なのです。
そして、人間の骨のうち、成長が最後に終わる骨です。
やっぱ、変わっていますね。
③組織の破格も多い。
医学用語の『破格』とは、『異常』や『奇形』までには至らず、また、機能には影響しない形状を指します。
いわゆる正常範囲内の個体差です。
実際に研究した例を挙げましょう。
摘出喉頭(Formalin no fixed organization)の上喉頭神経の走行状態を調べたことがあります。
アメリカ合衆国メイヨークリニック喉頭機能外科教室で行いました。
数々のご献体の喉頭を丁寧に触診していたところ、Dr.MaragosとDr.Isshikiから「神経と血管を探し出しなさい」と指示されました。
そこで、そうめんほどの上喉頭動脈や、糸ほどの上喉頭神経外枝の走行分布を調査しました。
非常に細く小さな存在なので、見つけられない被験体もありましたが、とても驚いたことがありました。
それは・・・、どれ一つ(一人)として、同じ走行パターンではないことでした。
そう、顔かたちが異なるように、喉の中も、バラバラです。
さらには、上喉頭神経の到達範囲の左右差も気になりました。
詳しくは、専門発表の中で述べましたが、簡単に言えば、上喉頭神経外枝は輪状甲状筋を支配しています。
ようするに、声帯をピンと張る高音発声に必須なのです。
一例ですが、右の神経は筋肉に達しているが、左は・・・、のように左右の筋力に違いが出てくるのは想像に難くありません。
これでは、うまくコントロールできないので、高音発声は苦手になるにきまっています。(このことから、【練習さえすれば、高音は必ず出るようになる理論】は100%正しいものではないことが立証されます。では、どうやって見極めるのか?、細すぎるのでレントゲンやMRIで検査するのは不可能です。実は、簡単な方法があります。それは触診です。輪状甲状筋は左右に垂部と斜部の二枚ずつ計4枚あります。この筋腹の厚みと、発声時の動きを、指で探査すればおおよそのことはわかります。外喉頭から検証する発声医学はここまで進んでいます!)
しかし、神経の走行に左右差があるからと言って、痛みがあるわけでもなく、しゃべられないわけでもないため、医学的には異常や奇形ではありません。
耳鼻咽喉科や解剖の先生に聞いても「正常範囲内です」と言われます。
でも、より素晴らしい、より自由な発声を、探求する歌手にとっては、厳しい事実だと思われます。
けれども、輪状甲状筋の動きの悪さを、他の筋肉で補って、素晴らしい声で歌っている歌手を知っていますから、不要と思われる筋肉や曖昧な存在でいること自体、きっと価値があると思えてなりません。(当サロンの患者さまですが、事故で甲状軟骨が変形し、手術で輪状甲状筋も取り除かれましたが、賢明なリハビリで胸骨舌骨筋を最大活性化させ、輪状軟骨と気管軟骨部を疑似関節として動かしながら声帯をコントロールし、テノール声区を歌っています)
生命の神秘に感服し、声がある喜びを再認識しました。
心より感謝いたします。
ともあれ、このように、声は、ひとそれぞれであり、歌も同じ。
そう、「これがベストだ!」「まさしく正解!」という概念ではありません。
逆に考えれば、どれもが、あるがままで良いのです。
ただ、「自分と聴くひとが満足し、声の本質に『心に沁み込む』芸術性を備えていると、とってもステキですね・・・」と言うだけのことです。
ボイスケアサロン
會田茂樹(あいだしげき)
~メッセージ~
この記事は投稿時の情報・見解・施術法であり、最新・正確・最良でない可能性があります。内容に関し一切の責務を負いません。その旨ご承知いただきお読みください。會田の理論と技術は毎日進化しています。
by aida-voice
| 2010-05-02 00:16