喉頭触診とクリニカルマッサージの取り組み 講演記録2


それでは、つづきをどうぞ・・・


4実際の触診方法とマッサージ
これは、まだまだ探究途中の段階で、お伝えする内容は少ないと思います。触る方法ですが、まず何よりも、頭で考えるのではなく、手が組織と会話するイメージを持つことが非常に大切です。私は触診のことを、タッチとかコンタクトとは言わず、アクセスと表現しております。触診中は、皮膚、筋肉、骨などの左右差やほんの小さな膨隆部を見逃さないよう集中します。実際の筋肉を探査するには、求める筋肉をおおよそ検討して、その部位をよく観察し、指腹でそっと触れます。喉頭を母指と示指で挟むようにアクセスするのが最もポピュラーな手技です。そのとき、目を閉じてはいけません。自分に都合の良い観念が大きく膨らんでしまい、正確性に欠ける恐れがあるからです。ただ、慣れないうちは、一定の間隔で目を閉じて、指先の感性を研ぎ澄ますのは構わないでしょう。皮膚をさするのではなく、ほんの軽い圧をかけて、指が組織に埋もれながら同化していく感覚を得てください。視覚は、見た瞬時に認識できますが、触覚は指で触れて、次にそれを動かさなければ物体を感知できないダブルアクションの特徴を持ちます。そして最大のコツが二つあります。第一に、目的の筋肉の起始停止を熟知してください。筋肉は、一部例外を除いて、ある骨または軟骨から起こり、必ず別の骨や軟骨に付きます。要するに筋肉の端と端はそれぞれ別々の骨や軟骨に付着しているのです。基本的に、固定されているのが起始部で、動くのが停止部です。第二は、目的の筋の筋腹に対し、垂直に横断させるように動かしながら探り当てることです。解りやすい胸鎖乳突筋で試してみましょう。胸鎖乳突筋の起始部は胸骨頭と鎖骨にあります。停止部は乳様突起です。つまり頚部の前面外側付近を前後するように動かせば良いでしょう。また機能を知っていれば、さらにアクセスが容易です。胸鎖乳突筋の場合、頭部を横に回旋すれば視認できるほど隆起します。では、最も難しい輪状甲状筋はどうでしょう。この筋の起始は輪状軟骨の外側面、そして二つの線維に分岐し、停止は、下部グループが甲状軟骨の下角前縁部に向かって斜めに走り、上部グループは上方に向かい甲状軟骨板下縁に着きます。したがって輪状甲状筋を触るには、甲状軟骨下やや側方から斜め約30~45度の上方向へ動かすことによってアクセスが可能となります。また、二つに分かれる線維を判別するのは、相当稀有な筋腹をもった人物だけで、通常は不可能に近いと思われます。さらに、胸骨舌骨筋の下に一部隠れて存在する場合は、それをかいくぐって探索しなければならず、また、筋腹が脆弱ない人もいるため、全く触れないことも多々あります。また輪状甲状関節の可動域を調べるのも有用です。まず輪状甲状関節が正常に動いているかどうかを確認しましょう。適当な発音のロングトーン発声時に甲状軟骨の上端を片手で固定しながら反対側の指で輪状軟骨の下端を徐々に上制します。日頃きちんと関節が活動しているなら、手の動きに合わせてピッチが変化します。
次に、マッサージの方法です。当院の基本的なマッサージは喉のリラックスと筋緊張の緩和にあります。喉頭専用の牽引と電療を施した後、専用ソファに座ります。顎は上げ過ぎず下げ過ぎずゼロポジションをとります。先ほどアクセスした各筋にマッサージを行います。次のような方法があります。軽擦法(手のひらでかるくなでる)、叩打法(軽く叩く)、震顫法(指を震わせる)、圧迫法(指先で適度に圧を加える)揉捏法(じっくりもむ。方向として、筋線維に沿うように行う、筋線維に対し垂直に動かす、の二つ)、クリッピング(皮膚をつまむ)、グライディング(喉頭を左右にゆする)、ストレッチング(両手の指を使って筋線維に沿って伸張する)などを、状況に応じ選択して10分程度行います。また、初回に長時間のマッサージをしてしまうと、翌日に筋肉痛や俗に言うもみ返しが起こる可能性がありますので、時間や量に注意が必要です。なお、すべりが悪いときはアロマオイルを用いるのも良いでしょう。これらは、発声能力を向上させるためのマッサージとして開発したものです。
先日、聖徳大学の山口創先生と長時間にわたって対談しました。講談社ブルーバックスの「皮膚感覚の不思議」など、触覚に関して多数の著作があり、触ることの第一人者です。かなり話が盛り上がり、触覚と歌唱には、厳格なメカニズムが解明されておらず、あいまい性と言った共通の類似点があることに、二人で愉快に膝を打っておりました。今後も情報交換など、協力しあうことを確約しております。この先、喉周辺部における最先端の触覚情報を得られることを希望しております。

5今後の展開
声楽から始まった音声研究ですが、考えれば考えるほど、探究すればするほど分からないことばかりです。喉の周辺には、なぜこんなに細かく小さな筋肉がいっぱいあるのか? 顎二腹筋と肩甲舌骨筋のような珍しい形状をした二腹筋が二つもあって良いのか? 茎突舌骨靱帯は本当に必要なのか? 一色先生のご本「声の不思議」を読んで随分と疑問は氷解しましたが、この先、喉頭はどう進化していくのか? など、声楽だけでも不明瞭で掴みどころがなく困っていたところに、喉頭の錯雑な構造に出会い、大変面食らっています。それでも、24時間、喉と声のことを考えていても飽きないほど楽しくてしかたありません。また、今般、一色信彦先生にお声をかけていただき、新しく機能性疾患をつぶさに知りました。歌唱だけでなく、音声医学の見地からも触診技術をさらに研鑽し、これらが秘伝の奥義とならず、誰でも簡単にアクセスできて、普及するよう進化させて参りたいと考えております。先ほど名前がでました聖徳大学の山口創先生もおっしゃっていましたが、触覚の世界は非常に曖昧です。どこまで科学的に解明できるか分かりませんが、一つ言えることは、「マッサージは気持ちいい」と言うことです。気持ちよさのメカニズムと痛みのメカニズムとは似通っています。この辺りからも、この先、手技の持つ可能性が大きく広がることを期待しております。私の趣味で始めた小学生の自由研究のようなものが、もしかすると、多少なりとも世の中のお役に立てるではと考えるとワクワクして参ります。いつの日か、喉頭マッサージ、あるいは、外皮から攻究する喉と声の研究成果を、何らかの形で発表や上梓できればと願っております。

6簡単な質疑応答
それではご質問のある方はお願いします。なお、私は専門の医師や音声学者ではありませんから、その点をご考慮いただき、平易な内容でお願いします。

以上が、喉頭触診とマッサージの取り組みでした。私の未熟な講話をおしまいまでお聞きくださり、ありがとうございました。今回は、基本的な概論が中心でしたが、個別の筋肉へのアクセスを、詳しく図解する準備が整いましたら、いつの日かご報告する機会があれば幸いでございます。
最後に、一色信彦先生のおかげで、素晴らしい学問を知りました。さらに、粋な本庄巖先生と出会え、先日は長井慎成先生と飲み明かし、本日こうして皆さまとお会いできました。百般のご縁をくださいました一色信彦先生に厚謝申し上げます。ありがとうございました。
                         
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My Boss 一色信彦京都大学名誉教授











最後までお読みくださった “あなた” ・・・
心より感謝いたします








ボイスケアサロン
會田茂樹(あいだしげき)





追記:対応している音声疾患は、痙攣性発声障害・音声振戦症・過緊張性発声・低緊張性発声障害・吃音・脳梗塞後の構音障害・声帯萎縮・声帯溝症・声帯結節・ポリープ様声帯・心因性声失症など多岐にわたります。しかしながら当院は病院でなく、疾病そのものを治すのではなく、発声能力を高めて楽な発声を目指します。そう、病気が治るのでなく、喉の体質を改善して、声を出しやすくするだけです。日常生活に困らない声を獲得してください。




~メッセージ~
この記事は往時の外喉頭外来〔医師と共同研究〕時のデータに基づくものです。よって、不確かな蓋然性も高く、内容に関し一切の責務を負いません。その旨ご承知いただきお読みください。現在は病気に対するアプローチは行っておりません。声の不調は医師にご相談ください。
by aida-voice | 2008-08-10 05:30