声の短問短答【続編】74


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「発声にかかわる筋肉は、なぜ、自律的に動かせないのですか?」

良い質問ですね。
発声に関与する筋肉は、肩甲舌骨筋、甲状舌骨筋、胸骨舌骨筋、胸骨舌骨筋、顎二腹筋、茎突舌骨筋、顎舌骨筋、オトガイ舌骨筋、輪状甲状筋、後輪状披裂筋、外側輪状披裂筋、斜披裂筋、横披裂筋、甲状披裂筋、声帯筋、甲状喉頭蓋筋、その他があります。《ここでは、舌や口蓋の筋肉を除きます》
これらは骨格筋であり随意筋。
すなわち、自分の意志によって動かしています。
「パソコン」と言おうと頭で考え、その命令を下し、呼吸関与筋によって呼気が作られ、喉頭周辺筋によって声帯をコントロールし、その結果として原音を生成、舌骨周辺および口腔の筋肉で構音して、言葉に成る。
他の部位(骨格筋)との大きな違いは、喉頭周辺は感覚をほとんど持っていないこと。
例えば、「右のもも(大腿部)の力を入れ、左のももは力を抜いて」と指示されれば、誰もがその通りにできますよね。
では、のどぼとけの先端(喉頭隆起)の右側は力を入れ、左側は力を抜いて」と言われても、思うようにできません。
現在、地球上に71億人の人間がいますが、ほぼ不可能。
もし、この感覚を有するひとがいたら、「ドレミ(音階)のドとラは、どこの筋肉を使い分けているか、指し示しながら詳しい動きを解説してください」と問われても、それを答えることができるはず。
あなたはできますか?
そう、この点が、他の骨格筋と異なるのです。
甲状軟骨の上下運動以外は、自律的ではあるが正確な感覚を持たない…
したがって、発声の指導が「ほら、下から水柱が昇ってくるように」「喉に口があって開くような気持ちで」「あごの下に鈴が鳴るような」など、イメージや感性のみの伝達になってしまうのです。
イメージがお互いに通じ合えば「あなたは合格」、一致しなければ再表現(その指導者の求める発声)できないため「君は下手」となってしまいます。
歌を習うって、なかなか大変ですね。
そろそろ、『なぜ、発声関連の筋肉は感覚が薄いのか』の問いに答えなければなりません。
伝聞の仮説となりますが、声帯が声のためでなく、鰓呼吸から肺呼吸に進化した際の防水弁として作られ、その後、声に転借した経緯があるようです。
そのため、発声関与筋は役目の明確さが損なわれた状態で発達しているものと推察します。
触診やビデオ検査していると、いつも、発声にとって、使いきれていない筋肉達の多さに驚かされます。
やはり、ヒトの身体の中でも進化の遅れた部位なのかもしれませんね。
だって、喉頭の一番の目的は、声道ではなく気道であるはず。
次は、嚥下摂食(飲み込み)運動。
呼吸が5分止まったら死んでしまいます。
食事が1か月できなければ、やはり命にかかわってきます。
最後、声が1年出なくても・・・

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下から見たMRI頚部断面画像に着色加工した絵




追記1:随分前、自由に声帯をコントロールできると豪語していた歌手と共に喉頭ファイバー(医師の協力)で検証したことがあります。「右の声帯を広げ、左だけ閉じる」「右の声帯を意図的に止め、左だけ振動させる」「右の声帯粘膜を薄くし、左は太くする」をやってもらいましたが、結果はすべて残念ながら左右同様の行為行動をしていました。




追記2:「輪状甲状筋の動きがわかるよ」とおっしゃる方々に「自分の輪状甲状筋の場所を人差し指で押さえてください」とお願いし、正確無比にぴしゃりと当てたひとはほとんどいません。さらに、声帯の位置を皮膚の上から指し示していただいても、本当に曖昧。あなたは大丈夫ですよね!?




追記3:輪状甲状筋を見つけるには、精密かつ正確な触診が必須。胸骨舌骨筋の筋腹厚を念頭に入れ、甲状腺の存在を考慮し、輪状軟骨の起始部と甲状軟骨の停止部を探り出します。高音発声が得意なひとは筋腹がはっきりしており、斜部と垂部も判別できますよ。すべて、指の触覚の成せる業。
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by aida-voice | 2013-05-06 15:20