これがミックスボイスだ! 謎の解明


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声帯を、楽器に例えるなら弦。
音を作り、音程を変えるのが役目です。
大切なことは、この音にも高さにも、「ステキな声」「きれいな高音」など、形容詞の付く音ではないこと。
つまり、原音なのです。
ギターの弦を外してつま弾くと、小さく頼りない音。
その原音を、胴の空間で反響させ倍音化して、美しい音色へと変えていく。
人間になぞられると、そこは共鳴腔。
音に関係してくると考えられる共鳴腔は五つあり、声帯から近い順に、喉頭室・梨状陥凹・咽頭共鳴腔・口腔共鳴腔・鼻腔共鳴腔です。
胸やお腹も共鳴腔と思っているひとがいますが、根本的には間違いです。
なぜなら、声は音であり、音は空気の振動なのです。
声帯を弾いた空気(ここでは呼気)が、再び胸に入ったり、まさか腹腔に入って行ったりしないことは自明の理。(もし、腹腔に空気が侵入したら大変!)
実際に空気(呼気の)通り道でなければなりません。
胸、お腹、頭、うなじ、肩、尻、もも、ひざ、ひじから音を出すと感じているひとは、それは共鳴ではなく共振に近いのではと考えます。
以前、あるボイストレーナーは「ひざやひじから音が出てくるんだ」と硬く信じていました。
発声に伴い、声道近くの器官が振動して、それを感じ取るのは可能だと思いますが、ひざやひじまで共振するかどうかは疑問です。
しかし、歌唱は科学で割り切れないもの。
弛まぬ努力を重ねれば、あるかもしれませんね。
さて、さらなる構造や動きは、これまで詳しく解説しましたから、そちらをご覧ください。(喉ニュース目次集『声帯』が便利でしょう!)
今回は、もっと声帯構造に集中してみます。
そこから、良声や歌唱に活かせるヒントが浮かんでくるのです。
声帯の断面を思い出してください。
思い出せない方は、2012年4月3日「声帯の断面は?」の断面模式図をご覧ください。
次に、良声や歌唱に必要な声帯の原音としての任務をおおまかに述べると、地声・裏声・ミックスボイスとなります。
音色(声がきれいとか美しいなど)は含みません。
賢明な読者なら、もうおわかりでしょうが、音色は各共鳴腔が担当しているからですよね。
あくまで原音。
ところで、地声・裏声・ミックスボイスって何?
昔、実験をしました。
モノマネ芸人を目指している若者にお願いしました。
かなり芸達者で、声を操っていました。
わたしが選んだ数種の音や声を、数週間、練習していただきました。
そこで、数名の方々(歌手、声優、俳優、声に興味のないひと)に、彼の声を聞いてもらいました。
「この声は、地声・裏声・ミックスボイスのどれだと思いますか?」
その結果、驚くことに、感じ方がバラバラ・・・
とくに繊細なミックスボイスに関しては、エリートボイスユーザーでさえ意見が異なっていました。
「この声は地声に近いミックスボイスだよ」「いいや裏声に近いよ」「違うよ、よく聞くとファルセットそのものだ」
したがって、明確な規定はなさそうです。
ここで、構造に戻ります。
地声・裏声・ミックスボイスは、どうやって作っているのか?
正しく知れば、前述のような曖昧さが納得できます。
これまで、地声は声帯筋と声帯粘膜の振動、裏声は声帯筋の振動が止まり声帯粘膜だけの振動、ミックスボイスは声帯筋の硬度を変えながら振動率を変化させる手法、と述べてきました。
簡明な表現としては良いと思います。
今回は、もう少し踏み込んで説明しましょう。
何が起こっているのか、地声はわかりやすい。
筋肉は重いので、全体が振動すれば、しっかりした声になる。
次に、声帯ヒダだけの振動が裏声。
細かく言えば、声帯靭帯より外縁の部位ですね。
つまり、非角化重層扁平上皮とラインケ腔。
ここで注意しなければならない事項が2つあります。
まずは、裏声のとき、筋肉はどうなっているのか?
これも以前、京都の一色クリックで、医師の協力により、地声・裏声・ミックスボイス・エッジボイス・ホイッスルボイス・デスボイス・バタフライボイス・リングボイスなど発しているときの声帯を、喉頭ファイバーで検証したことがあります。
裏声のとき、やはり声帯筋が多く存在しているであろう部位、すなわち声門から離れた周囲は硬直して振動傾向が見られなかったのです。
声帯筋は骨格筋です。
不随意で動く内臓筋ではありません。
骨格筋には特徴があります。
それは縮むこと。
詳しい機構は省きますが、縮んで硬くなります。
これらの作用によって裏声が出来上がるのですね。
やや体質的なのですが、声帯筋が硬くなりすぎて、地声が出せないひとも知っています。
2つ目は、ラインケ腔内の疎性結合組織の状態によって振動が変わること。
ラインケ腔には、ヒアルロン酸やコラーゲンに関係する膠原繊維があります。
これら疎性結合組織が、非角化重層扁平上皮を支えているのです。
液性成分が多い場所。
よって、ゲル状態によって、振動そのものが変わると予想されますよね。
この量が減少しすぎると、声帯ヒダが収縮して裏声が困難となったり、最悪の場合は声帯萎縮になったりします。
病気として診断された声帯萎縮の方が、この部位にヒアルロン酸の注射をすると、一時的に声が良くなるケースもあります。
さて、裏声の話題が長くなってしまいましたが、最後にミックスボイス。
ポイントは、声帯筋硬度のコントロール性と声帯粘膜の十分な保水性。
簡単に表現するなら、声帯筋に柔軟性とパワーを備え、声帯粘膜をしっかり保湿しておくこと。
そして超重要になるのが、声帯靭帯と弾性円錐。
通常、靭帯は骨と骨をつないでいます。
声帯靭帯は甲状軟骨前連合と披裂軟骨声帯突起まで。
ここでは靭帯の意図とする関節形成を行っていません。
やはり喉頭は、ヒトの中でも不思議な場所のトップです。
披裂軟骨の回転およびスライドに伴い、声帯靭帯も大役を果たしています。
そう、支え。
声帯筋の動きを良くするためには、声帯靭帯の十分な支えが必須なのです。
そして声帯靭帯縁から輪状軟骨弓に弾性円錐があります。
つまり、この弾性円錐も声帯筋を支えている。
これら声帯靭帯と弾性円錐がしっかりしていなければ、声帯筋の運動性能が損なわれてしまう可能性がでてきます。
さらに、弾性円錐そのものも活かさない手はありません。
声帯ヒダと密接につながっています。
発声に適した振動を促せば、音作りに幅がでてきます。
自作の模型(紙粘土で作った披裂軟骨と輪状軟骨)で試したところ、声帯筋の運動と声帯靭帯および弾性円錐の関係がはっきりしてきました。
まだまだ実験途中であり、仮説レベルですが、この先もじっくり検証を続けていきます。
歌唱で、ミックスボイスを使いこなせるひとは、本当に歌がうまく聴こえますよね。




追記:声帯筋の硬度変化の方法は、筋肉自身の緊張と弛緩によるもの、披裂軟骨の動きに伴う伸展と短縮によるもの、血圧の変化(病的でない充血と虚血)によるものの、三つがあります。


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甲状軟骨を上から見た絵(オレンジ線が声帯靭帯、緑枠が弾性円錐)
 


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甲状軟骨を下から見た絵(緑枠が弾性円錐)
 




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 會田茂樹|あいだしげき 

 
by aida-voice | 2016-05-21 00:13