坂原晋太郎先生からの寄稿文


科学的考察を得意とし、極上の喉頭を持つボイスアドバイザー:坂原晋太郎先生から寄稿文をいただきました。
素晴らしい内容でしたので、ここに謹んで掲載いたします。





【声帯にかかる力と長さの変化について】

ばねの場合、ばねの伸びとばねに働く力の関係を示す近似式として、フックの法
則 F = -kx (F : 復元力, k : ばね定数, x : 変位) が使われますが、この式で
すと、強い復元力を得るためにはばねを伸ばす必要があることになります。一方、
ばねのようには伸びない、いわゆる剛体の場合、引っ張る力の強さがそのまま剛
体に張力としてかかることになります。また、ばね定数が非常に大きなばねは剛
体として近似できます。(剛体自体ばね定数=無限大とした近似なので。)では、
声帯の場合はばねのように伸びがなければ力が生まれないものとして考えるのが
正しいのでしょうか、それとも伸びる長さは無視できるほど小さく、剛体として
近似しても問題ない程度なのでしょうか。以前拝見した記事ですと、山下敬介先
生は声帯の長さはほぼ一定と仰っていたそうですが、声帯もそれを伸ばす輪状甲
状筋も元々が小さな組織なので、「ほぼ」がどの程度なのか気になりました。

もし声帯が剛体として近似できるものとすると、輪状甲状筋の生み出した力は即
座に声帯に張力として加えられて釣り合うことになるので、輪状甲状関節の状態
は音程の高低の変化に対してさほど違いが生まれない気がします。また、輪状甲
状関節のヒンジ運動は、力点である輪状甲状筋から支点までの距離よりも、作用
点である声帯から支点までの距離のほうが長く、声帯に強い力を作用させるには
不向きなため、スライド運動のほうが効率がよく、重要となるように思えます。

しかし、声帯を弾性体として考えなければならないものとすると、高音の発声は
輪状甲状筋が強い力を発揮した瞬間にはまだ声帯は伸ばされておらず弾性力が発
生していないため不可能で、輪状甲状関節が運動して声帯が伸ばされることによっ
てはじめて可能になるということになります。この場合、輪状甲状関節のヒンジ
運動は、輪状甲状筋の短い短縮距離で声帯の伸張距離を長く稼ぐことができる点
がスライド運動よりも効率的で、目的の音程に必要な弾性力を生み出すまで声帯
が伸ばされきった後は、その状態でつりあうように筋力も維持しなければならな
いので、そこでは強い力を作用させるのに有利なスライド運動が効率的となるの
だろうと考えました。






會田のコメント・・・

お見事


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by aida-voice | 2012-01-22 15:58