「お腹から声を出す」ってどういうこと?


重要 

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お腹(おなか)から声を出すと声や歌が良くなるのは本当です。
でも、本当にお腹から音が出るのではありません。
それでは、どのようなメカニズムで声が良くなると言われるのでしょう。

①呼気圧が高まる
   ↓
②声門でベルヌーイの定理が働く
   ↓
③声帯振動率が良くなる
   ↓
④声が大きくなったり響きやすくなったりする

このような経緯を示します。
個々に説明しましょう。
①の呼気圧が高まるです。
まず、「お腹から声を出しなさい!」と命じられると、誰もがお腹の存在を意識します。
お腹を意識するとは一体どのようなことなのか?
多くのひとは腹部に力を入れます。
ここでポイント。
お腹に力を入れるときに、へこませるか? ふくらませるか?
これによって呼気圧が異なってきます。
力を入れてへこませた場合、横隔膜は上制し、腹腔内の体積は減少します。
この状態で息を吸っても、肺への空気の入りは少なくなります。
逆に、力を入れてふくらまたせた場合、横隔膜は下制し、腹腔内の体積は増大します。
もちろん後者の方が、より良い声には好都合。
息を吸い込むときに、お腹を突き出す感覚で行うと良いでしょう。
なお、息を吐くときも、お腹をへこますのでなく、お腹を徐々に突き出すようにすると、長い呼気と繊細な息のコントロールが手に入りますよ。
いろいろな呼吸法が提唱されていますが、重要な普遍的事実は一つ。
空気は、胸郭内にある“肺”の中にしか入らない事実です。
どんなにがんばっても、お腹の中には空気は入りません。
つまり、横隔膜より下に空気は行かない。
もし、ここまで呼気が入るひとは、今すぐに救急車を呼んで病院へ行ってください。
腹腔に穴があいているのです。
命にかかわってきます。
下の絵は、吸気と呼気の横隔膜の様子です。




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左は息を吐き切ったときの横隔膜の位置。
右は息を吸って肺を満たしたときの横隔膜の位置。
この横隔膜の上下によって、外気との気圧の差が生じ、肺の中に空気が入ったり出たりしているのです。
これを呼吸と言います。
喉や気管支の中でファンが回って空気を取りこむのではありませんよ。

さて、②のベルヌーイの定理のお話。
これは、声帯の間(声門)に空気が流れると、声帯ヒダの間の空気の流れが周囲よりも速くなるため、その部分の圧力は小さくなって、圧力の大きいところから小さいところへ力がはたらくことになり、声帯はお互いに寄って声門が閉じることになります。
ある優秀な歌手から質問を受けました。
「もし、呼気の流量が多すぎたら?」
良い質問です。
流れる量が多すぎるので、声帯ヒダを大きくめくれあがるように弾いてしまい、ベルヌーイの定理どころか声にもならないでしょう。
完全な息漏れ状態(気息性嗄声)です。
したがって、ベルヌーイの定理を正しく使うためには、息のコントロールが必須。
息のコントロールは横隔膜で行います。
これは、誰でも知っています。
実は、喉の共鳴腔の形状(容積)変化でも息のコントロールが可能なこともわかってきました。
特に優秀な歌手は、これら咽頭共鳴腔も活かしながら息をコントロールしていますよ。
けれども、その本人は知らずにやっていますね。
ほとんどが。

次に、③の声帯振動率が良くなるです。
ベルヌーイの定理を利用すれば、声門閉鎖(声帯ヒダを閉じる)に過多な力が要りません。
すなわち、穏やかな力で声帯を掌握できるわけ。
こうなればFFからPPまで自由自在。
本当に素晴らしい声(歌声)です。
きっと、聴くひとを魅了することでしょう。
この状態を「声帯の振動率が良い」と表現しています。
繰り返します。
喉に余計な力は要りませんよ。

最終フローとして、④の声が大きくなったり響きやすくなったりするがかないます。
ここまで読んで得心が行ったと思いますが、そう、これこそ腹式呼吸の根本。


どうですか?
お腹から声を出すとは深い意味があったのです。
確かにイメージ表現ですが、素晴らしいイメージだと思います。
是非、あなたもお腹から声を出してください!






追記1:喉の柔軟性は大切です。しかし、この柔軟性とは「力が抜けたダラダラ」ではありません。無駄な力み(りきみ)がなく、いつでも瞬時にパッと動く準備ができている柔軟性を意味します。このやわらかさがあるからこそ『喉を開く』『喉をあける』ことができます。その結果、喉頭を流れる空気量が増し、呼気をいかんなく活用できるのです。そして、次に筋力。これも必須です。なぜなら、発声や歌唱は喉筋の運動だから。声帯も筋肉と粘膜から作られています。また声帯は多少縮む以外は、自分で伸びたり広がったりすることができず、喉周辺の筋肉によって動かされています。つまり、操り人形のようなもの。だから動かすには筋力が要るのです。力を入れなければならない場所が存在します。ちょっと難しくなりますが、それは前筋(輪状甲状筋)と後筋・内筋(後輪状披裂筋や外側輪状披裂筋など)です。前筋はピッチに、後筋・内筋は声帯の開閉や張りに関与します。そして、それらの筋肉に柔軟性と筋力が兼ね備わったとき、喉は最高の動きをしてくれます。なお、恒常的にやわらかい方が良いのが咽頭収縮筋。本来は嚥下(食べ物を飲み込む)ための筋肉なのですが、ここが硬くなると、何やら声に良くない。それも、周辺筋にも甚大な悪影響を与えるのです。喉詰まり発声や機能性発声障害のひとは、もれなくこの筋肉が硬いことも判明しています。歌のテクニックや方法だけでなく、自分の持つ楽器(喉)を最高に仕上げ、100%使い切ることは、一流の歌手にとって重要なことだと思っています。




追記2:吸気(空気)は肺にしか入らないことはわかりましたよね。そこで、胸郭を拡大して肺への吸入量を増やすのが、当サロンの肋椎関節アプローチ。胸椎と肋骨をつなぐ関節の可動域を広げ、胸郭前面の動きを助けます。理論上、5~10%以上(すなわち1割も!)の肺活量が増します。それゆえ、吹奏楽器の演奏者から「息の流れがスゴイ」との好評を得ているのです。あなたも体験してください。下の絵の右は、胸郭拡大後の模式絵。縦だけでなく横に広がれば体積が増大するのは火を見るよりも明らか。





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そして、横隔膜の正しい位置を知ってください。大勢に質問しましたが正解者が少ないことに驚きを禁じ得ません。思ったより上ですよ。下はややデフォルメした腹部絵に横隔膜のおおよその位置を赤線で描きました。





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追記3:痙攣性発声障害や音声振戦症、声帯萎縮や声帯溝症の方も、お腹から声を出せるようになると症状が多少緩和されます。もちろん病気そのものが治るものではありません。痙攣性発声障害や音声振戦症の場合は呼気流量と共に連続した息の流れが、声帯萎縮や声帯溝症の場合は呼気圧が大切だと思われます。また「何となく喉が詰まる」などの病的でない軽度過緊張発声の場合、肋椎関節アプローチだけで完全快癒したケースもありました。これは呼気圧の低下によって、喉に力を入れなければ声にならない、すなわち喉頭周辺筋を絞り出すように硬化させながら発声していたものと考えられます。スポーツで例えてみましょう。野球のボールを投げるパワーが足りないにもかかわらず遠くに早く投げたいとき、気持ちが焦りガチガチに力んで投げているようなものです。これを解消するには、パワーを回復させ、肩や腕の余計な力を抜いて、しなやかに振りぬく必要があります。これとまったく同じ。発声はスポーツに近いのです。これらのことからも、声帯を振動させるパワーの源である呼吸が大事であるのがわかりますね。





喉と声のスポーツトレーニング&リラクゼーション
 ボイスケアサロン
 會田茂樹|あいだしげき 





~重要なお知らせ~ ●外喉頭から考究する発声の理論と技術は日々進化しています。この記事は掲載時の情報であり、閲覧時点において最新・正確・最良でない可能性があります。すべての記事の内容に関し、一切の責務を負いません。●記事の内容は万人に適合するものではないため、当サロンの施術に関し、記事の内容通りの効果や結果は保証も確約もしておりません。〔当サロンでは役立てないと判断された場合、理由を問わず施術をお断りします〕●声や喉の不調は、最初に専門医の診察を受けてください。歌唱のトラブルは、最初にボイストレーナー(音楽教師)にご相談ください。




 
by aida-voice | 2017-11-15 00:24