無茶なボイストレーニングに注意


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「ボイストレーニングのレッスン中に、無理な発声を強いられ、反回神経麻痺を招いて声が出なくなった」
これを理由に「ボイストレーナーに対し損害賠償を求めるので力を貸して欲しい」と、見知らぬひと(未来院者)から要請を受けました。
はたしてボイストレーニング(歌の練習)で、喉や声の事故は起きるのでしょうか?
稀ですが、可能性はあります。

《繰り返しの使用によるケース》
●声帯結節
●ポリープ様声帯
●外喉頭筋筋膜炎
●習慣性筋硬化発声

《一瞬の過度な力が加わるケース》
●喉頭周辺筋(軟部組織)断裂
●内喉頭の出血
●茎状突起不全骨折
●反回神経損傷による麻痺
●機能性発声障害(声失症を含む)
●無理な体勢による脊椎損傷(腰痛や頚部痛など含む)

これまでに、わたしが実際に遭遇したり聞き及んだりした事例は数多くあります。
5つ挙げます。

①早口言葉の練習を何度も強要されたとき、突然、喉のふちに痛みが走った。音声専門の耳鼻咽喉科や整形外科を何軒もまわったが、病名ははっきりしなかった。当サロンの外喉頭筋画像検査で、茎突咽頭筋甲状軟骨付着部筋腱移行部断裂が確認された。物療および患部固定の処置を施し、改善に至った。
②あくび喉で重低音を出す訓練を受けていたとき、喉の中がドンと圧迫されたような痛みと共に急に声が出なくなった。すぐに大学病院の耳鼻咽喉科に受診した結果、片側披裂軟骨脱臼と診断された。〔陳旧化する前に甲状軟骨反転術を用いた整復が必須〕
③個人レッスン中、高音発声練習を繰り返していたら、何となく糸がプツンと切れるような感覚を得た。そのときから、声がひどくかすれてしまった。音声専門の医師の診断で、反回神経麻痺が発覚。歌うどころか、日常生活もままならない状況となる。医師の紹介で当サロンへ来院。検査を行ったところ、神経断裂でなく絞扼性麻痺の可能性と判明。硬化していた喉頭周辺筋を調整しながら神経伝達性を向上させた後、声のトラブルは解消。
④指導者から、発声しながら首から腰を大きくそらせて腹式呼吸のレッスンを受けていたところ、急に腰部中央が激痛に襲われ、左足がしびれて脚が動かなくなった。整形外科で診断の結果、腰椎後湾強要による脊柱すべり症および椎間板障害。このケースも相談を受けたが、当事者間の問題であることと、当サロンでは腰部に関しての診察は行っていないため、専門医と弁護士に相談するよう進言する。
⑤たび重なる大声発声の稽古中、突然、首を絞められたように感じて息ができなくなった。その後、通常の声が出難くなり、ささやき声を余儀なくされる。地元の耳鼻咽喉科では「声帯に問題ない」さらに「気のせいだから心療内科へ行きなさい」と言われた。音声専門病院で機能性発声障害(おそらく音声衰弱症)と診断。音声訓練ではあまり改善せず、当サロンへ。難治ではあったが、日常生活に困らない程度まで改善。

作用があれば、必ず、反作用も存在します。
つまり、良い効果が期待できる半面、ときに逆の効果も現れます。
これは世の常。
めったにありませんが、リスクがあることも十分留意してレッスンに臨んでください。
ここまではいかなくても、「〇〇先生に習ったら、逆に声に悪いような気がする!」「◇◇先生と△△先生の教える内容が正反対。どちらが正しいの?」「××先生のレッスンを受けると、いつも喉が痛くなる・・・」との話をときどき耳にします。
やはり発声事故を回避するには、あなたに合ったメソッドはもちろん、正しい発声医学の知識を持ち、愛情たっぷりの先生を選んで習うのが大切だと思います。
事故が起きてからでは遅いのです・・・
なお、上記の訴訟の手助けは、現場に居合わせたわけでもなく、また、実際に喉も診ていないので、「わたしには当件に対し公平な判断を下すことができないためご期待に添えません」と丁重にお断りしました。

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追記1:「どんなボイストレーナーがお薦めですか?」とメチャクチャ多くの問い合わせをいただきます。歌唱のテクニックを熟知しているのは当たり前。その他に選ぶときのポイントが2つあります。
①喉と声の知識を十分に持っている先生。いいかげんな選び方ではいけません。だって、あなたの大切な声を全面的に任せる先生でしょう。教えていただく先生の歌がうまいだけではダメ。そう、習って、実際に歌うのはあなただから。自動車の構造をまったく知らない教習所の先生から運転を習いたいですか?
②〔声〕と〔歌〕と〔人〕を愛してやまない先生。声や歌には『生き方』や『センス』が大きく関与します。人間としても最高の師を選んでください。全国には優秀なボイストレーナーがいっぱいいます。見つけてください!



追記2:現在、ボイストレーナーには国の定めた資格や規定はありません。声や歌は自由です。わたし自身、そのような必要は無いと考えています。しかし、誰もが看板をあげた瞬間から『先生』です。あなたも、「ぼくはボイストレーナーです」と、部屋とキーボードと名刺があれば、今日から先生。ただし、教えるからには責任があると思います。この責任が最も大切。この先、どんどん先生が増え、もし発声事故が増加したら、国が介入してくるでしょう。歌を習って、不幸になるひとがいてはいけません。そのための規格や基準の設定は賛成しますが・・・、しかしながら・・・、やはり声と歌は自由な存在であるべきです。可能なら、声と歌を正しく教える先生ばかりであることを強く願っております。なお、当サロンで確認試験(超難問)をパスしたボイスアドバイザーは、ボイストレーナーとは異なります。発声法や歌唱法は伝えていません。会員は、発声の医科学の真実を、世の中の皆さまに知っていただくよう、日々努力しております。



追記3:正しく適切に歌唱練習や発声訓練をすれば、事故やケガは起こりません。安心してくださいね。今回の記事は、決して恐怖をあおっているのではありませんよ。無事故で、いつまでも楽しく歌っていただきたいから。そう、誰一人、不幸になって欲しくない・・・。声が出ない辛さは身に沁みています。

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by aida-voice | 2016-03-01 00:18