ハードボイスユーザーの声のケア【過去記事再掲載】


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これまで、わたしが勤めていた各耳鼻咽喉科や現ボイスケアサロンにも、教育関係者の皆さまが大勢やってきました。
やはり、『教える』というのは、声を大にしたり張ったりと、大変なのです。
学校の先生の中でも、声が枯れたり声帯結節(声帯にたこができる)になったりする割合が多いのが、低学年や幼児の担当者です。
中学生より小学生を教える先生、高学年より低学年、そして幼稚園の先生と保育士が、相当のハードボイスユーザーとなります。
さらに、男性より女性に多い。(これは幼稚園の先生と保育士は、女性が多いからだと考えます)
声帯を含む小さく脆弱な喉まわりの筋肉は、アッと言う間に疲弊し、声は悪い方向へ変化します。
それでも使い続けます。
教育者魂ですね。

メカニズムを簡単に説明します。
①声帯に関して・・・《内喉頭》
オーバーワークで喉は疲れます。
そう、発声は運動と同じ。
疲れると、声帯は浮腫(むく)みます。
浮腫むと、声帯の振動効率が低下します。
つまり、同じ声を出すにも、より大きなパワーが必要になるのです。
それらは、呼気と喉周辺筋でまかないます。
また、浮腫みによって、声門が開き、息が漏れて嗄声(ハスキー)になります。
かすれ声を是正しようと、さらに力ずくで発声します。
どんどん悪いスパイラルに入り込んでしまいます。
挙句の果てに、声帯同士がぶつかり合って声帯結節に、声帯粘膜内部の内出血によってポリープ様声帯になる危険性が増大します。
②喉周辺筋に関して・・・《外喉頭》
声帯のトラブルのために、喉周辺筋に予想以上の力が入ります。
これによって甲状軟骨の位置が深くなります。(頸椎方向)
この結果、披裂軟骨の可動性を阻害したり、共鳴腔を小さくしたりします。
つまり、声を出し難くなったり、喉が詰まったり、声に響きがなくなったりするのです!
場合によっては、舌骨も上奥に移行します。
舌を押し上げます。
そのため滑舌が悪くなります。

上記の内喉頭及び外喉頭の悪循環に陥ったら、抜け出すのが大変です。
①の内喉頭に関しては優秀な耳鼻咽喉科で診てもらいましょう。
②の外喉頭に関しては当サロンの役目。
しかし、予防が一番です。
具体的な方法はあるのか?
実は、簡単ではありません。
なぜなら、日々、使い続けるからです。
無声を推奨しても、授業を簡単に休める先生などいません。
「長く休めって? そんなの無理です。クビになってしまうわ・・・」
そこで編み出したのが二つ。
『現場で疲労させない工夫』と『疲労を持ち越さない工夫』です。
まず、現場で疲労させない工夫。
さあ、スポーツを思い出しましょう。
ハードな運動の前と後には、必ず、ウォーミングアップとクールダウンしますよね。
発声も同じ。
なお、ここでのウォーミングアップは声のアップではなく、喉のアップです。
お間違いなく。
「そんな時間はないわよ!」と声が聞こえてきそうですね(笑)
そこで、忙しい方にも出来る、たった一つのアップ。
最初に、両手のひらで首をはさみます。
手首が手前になるように。


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そして、喉の正中が動かないよう左右に振ってください。(声を出す必要はありません)


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ゆっくり、ゆっくり・・・
左右10回でOKです。
これは、大雑把ですが、喉周辺筋のストレッチングです。
次はクールダウンです。
まず、肩・喉・顎の力を抜いてください。
口を閉じたまま、舌をしっかり押し下げながら“あくび”をしてください。
もちろん、本物のあくびでなく、あくびの真似で差し支えありません。
甲状軟骨(のどぼとけ)がギュッと下がることを実感しましょう。


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じっくり、じっくり・・・
甲状軟骨を最も下におろしたら、その位置で10秒間ホールドします。
維持している間は、決して力まないよう。
肩・喉・顎のリラックスが絶対条件ですよ。
口を閉じて行うのもポイントです。
元に戻し、深呼吸します。
10秒×3回が目安です。
また、他の先生に見られないようにしましょう。(気を抜いて怠けていると勘違いされますからね)
これは、喉頭周辺筋を弛緩させ、さらに、血流を増やし、疲労回復をねらっています。
本当は、他にもやっていただきたい体操やストレッチがいくつかありますが、きっと多忙を理由にやらないでしょう。(苦笑)
よって、この二つで結構です。
そして、疲労を持ち越さない工夫です。
とくに「使い過ぎたなぁ」「今日はガラガラ声になってきたぞ」と感じたときは必ず行ってください。
それは、帰宅してから蒸しタオルで10分程度、喉を温めることです。
ゆったりした服装に着替え、仰向けで横たわって行ってください。
喉前面におおうように温かい蒸しタオルを乗せます。


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蒸しタオルはレンジでも簡単にできます。
温度は「温かい」が基準で「熱い」ではありません。
やけどの危険が伴います。
また、熱過ぎる加温で交感神経が活発になり、疲労回復にならなくなります。
目は閉じた方が良いでしょう。
厚めの生地のタオルがお薦め。(冷えにくいため)
室温が低いときは、5分&5分と、新しい蒸しタオルを用意するのも一法です。
これは、喉周辺筋の柔軟性と循環機能を回復させ、タオルからの蒸気で声帯も保湿されますね。
さらに、精神のリラクゼーションにもなります。
多忙でお疲れだとは思いますが、少しずつでも習慣化させてください。





幼稚園や保育園の先生へ
これからの日本の未来を担う子供たちのためにも、より良い声で、より聴き取りやすく、より愛情のある声で授業が続くよう、がんばってください。心より応援申し上げます。






~重要なお知らせ~ ●外喉頭から考究する発声の理論と技術は日々進化しています。この記事は掲載時の情報であり、閲覧時点において最新・正確・最良でない可能性があります。すべての記事の内容に関し、一切の責務を負いません。●記事の内容は万人に適合するものではないため、当サロンの施術に関し、記事の内容通りの効果や結果は保証も確約もしておりません。〔当サロンでは役立てないと判断された場合、理由を問わず施術をお断りします〕●声や喉の不調は、最初に専門医の診察を受けてください。歌唱のトラブルは、最初にボイストレーナー(音楽教師)にご相談ください。





by aida-voice | 2016-02-08 03:44