ベルカントを解く? 答えは喉頭蓋!


声楽やオペラの歌唱方法の一つに、ベルカント唱法があります。
Bel Canto とは、美しい歌を意味するそうです。
私は、このキーワードに関する主な書籍を読み漁りましたが、結局、「これだっ!」という定義や方式はないような気がしました。
そこで、「あの歌手は、ベルカントの発声をしている」(?)と表現される喉頭状態を調査してみました。
そう、今回は、実験や研究でなく、調査なのです。
なぜなら、ベルカントそのものが正しく確定判断されていないからです。
「歌手Aはベルカントだが、歌手Bは違う・・・」
どこがどう具体的に違うのか、聴き手の耳にゆだねられるのです。
そこで、一般的にベルカント発声が出来ていると言われている歌手の動画を集め、そうでないひとと、聞こえと、外喉頭の様子を徹底的に比べてみました。
聞こえに関して、なるほど・・・
科学的用語では言い表せませんが、次のように感じました。
①美しい声(聴き続けても疲れない)
②発声にストレスがない(特に高音)
③自然な声(作為的でない)
④息の流れがある
そして、ネットで種々調べると、③の『自然』という言葉をよく目にしました。
この『自然』に着目して、次に外喉頭を比較し、調べました。
その結果、導き出されたのが、喉頭蓋の存在です。(軟口蓋とは違いますからねぇ~)
喉頭蓋は、食物や水を食道に送り込む軟骨のふたです。
下絵、うちわのような平らな物体(オレンジ斜線部)が喉頭蓋です。
上から、正面・側面・上から見た状態です。

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声賢人のあなたは、甲状軟骨との位置関係を確認しておきましょう。(←超大切!)
また、喉頭蓋は、内喉頭の粘膜組織におおわれ、甲状喉頭蓋筋によって支配されています。
この甲状喉頭蓋筋の役割が、喉頭蓋の引き下げに働き、垂直に立ち上げる筋が存在していないことも最重要ポイントですよね。
下のモノクロ写真は、私が米国メイヨークリニック喉頭機能外科で、摘出喉頭(解剖は医師)を用いて喉頭蓋の動きを触診研究した記録です。(ご献体くださった方のお志に深く感謝申し上げます)
写真下方の、舌(べろ)のような物体が喉頭蓋です。
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次に、実際の動きです。
飲みこんだとき、甲状軟骨は上方移動し、その瞬間、喉頭蓋は倒れます。
ちょっと趣旨が異なりますが、下の動画は、嚥下困難の方の喉頭蓋の動きを撮ったものです。
造影剤入りのゼリーを召し上がっていただき、喉にさしかかったとき、てこの原理のようにピョコンと喉頭蓋が動きます。
まずは、静止画で位置を確認してください。
オレンジ色の楕円が喉頭蓋です。

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さて、この喉頭蓋が垂直になった状態で発声すれば、声道は気管支・声門・梨状陥凸・咽頭・鼻腔がほぼ一直線となって、声はスポンと昇っていくでしょう。
きっと、この状態がベルカントだと予想します。(実際、海外のオペラ歌手をプロデュースする専門家が、同様の意見を述べています!)
ならば、発声時に喉頭蓋が立つ環境を作ってあげればよいのですね。
そのための方法は簡単。
喉ニュースを熟読している声賢人なら「ははぁーん」と膝をはたと打つことでしょう。
ベルカントとは、テクニックの問題でなく、いかにスムーズな音源声道通過を求めるかの、フィジカル要素たっぷりの歌唱法であることがわかりますね。




ボイスケアサロン
會田茂樹(あいだしげき)




追記1:ベルカントは、声楽やオペラのもので、J-POPやロックには不要ですが、曲想や感情表現にときどき取り入れれば、歌の奥行きが増すかもしれませんよ。 《発声手法の一つであるヘッドボイスも、この状態ではないかと推測されます》



追記2:「じゃあ、ベルカントは誰でも楽々できるの?」の問いですが、ベルカント発声の環境を作り出すのは可能ですが、それをコントロールする、つまり、歌に活かすのは難しいと考えます。特に、喉頭蓋を意図的かつ繊細に操る高等テクニックは、選ばれたごくわずかの天才の領域でしょうね。



追記3:「摘出喉頭(解剖は医師)を触診していて、喉頭蓋って、さわるとどんな感じ?」との質問の答えです。上の写真を見てください。私の指と比較すると、思ったより小さいことがわかるはずです。この摘出喉頭は、60代の男性です。喉頭蓋の感触は、鳥の手羽の軟骨のように、やや硬さはあるものの、くねくねしています。また、表層の組織は、ぬめりがあり、なめらかです。多くの喉頭蓋を直接触って、さまざまなチェックをしましたが、個体差と年齢差が大きいのも特徴でした。同性同年代にもかかわらず、軟骨組織の硬さの違いに驚きました。さらに、加齢と共に、骨化しているケースもありました。本当に不思議な存在です。



追記4:ある声楽家の話です。その方は、声の不調(思うように発声できなくなった)を訴え、当サロンに来ました。「都内で、声楽やオペラ歌手が多く訪れる耳鼻咽喉科で診てもらったら、喉頭蓋が邪魔をして、声帯がよく見えないと言われた」とおっしゃっていました。そこで、外喉頭を調べると、案の定、舌骨が深く入り込み、喉全体の運動性を低下させていました。ことさら、発声時に、ギュッと力が入り、さらに深くなっていたのです。この状況では、舌骨そのものがブロックして、喉頭蓋は垂直に立たず、クリアな音声にならないのは明白でしょう・・・





~メッセージ~
この記事は投稿時の情報・見解・施術法であり、最新・正確・最良でない可能性があります。内容に関し一切の責務を負いません。その旨ご承知いただきお読みください。會田の理論と技術は毎日進化しています。
by aida-voice | 2010-04-30 16:07